輪転機を捨ててしまってはや3週間(^^;)
すっかり忘れた頃にまた始めるわけですが、ちょっとフォローを。 印刷・制作職場の方には良くしてもらっていますし、彼らと先輩たちのおかげで今の新聞のクオリティーが出せているのは事実です。劣悪な環境下で働くその頑張りには本当に頭が下がります。 ■製品の問題点 そんなわけですっかり悪者になった私ですが、輪転機は新聞の中にあるいくつかある地雷のひとつに過ぎません。あえて踏みに行ったのは、それだけ現在の新聞紙面を製品と考えると問題点が多いと思うからです。 私が考えている問題点を列挙してみると 1.版型が大きすぎる 2.色の再現性が悪い 3.ページ割の硬直化 4.保存性に欠ける 5.情報が一過性 6.記事が薄い 7.速報性に欠ける 8.折り込みチラシがかさばる 9.ださい...などなど 一見いいとこなしの様にも見えますが、もちろん利点もあります。 ・慣れ親しんだ新聞体裁 ・大量生産による安価な制作費 ・確実な配送網 これがあるからこそ新聞として成り立っている訳です。が、今の輪転機による大量印刷一括配布という形態にとらわれている限り、上記の問題点は解消される事はありません。 ・版型について 今の新聞体裁にしても元々は鉛活字を使った印刷工程から出来た様式であり、制作のしやすさと記事組替えのスピードからこの版型に落ち着いたと聞いています。昭和40年代まで新聞社内には鉛工場があり、重さ20キロ弱の凸版を輪転機に据え付け印刷していた完全にプロダクトアウトな製品でした。しかし、文字は電子写植からパソコンフォントになり、版も樹脂をへてオフセットになっています。見出し地紋もフィルムを5回焼き直して縁取りする事もなく、パソコン上で自在に打ち直しが可能になっています。なのに、体裁だけ昔通りにする必要がどこにあるのでしょう。確かに慣れと言う要素は否定しませんが、昨今の住宅事情、生活スタイルに今の版型が大きすぎるのは明らかです。開けば一覧性は上がりますが、折り畳んでしか見られないのならページ操作性は最悪です。コンビニや駅スタンドにおいてある状態で、折り返しで大見出しが読めない、なんてのは宅配以外では売る気がない、手に取る事を拒否しているかのようです。 ・色について 色の再現性に関して言えば、今の輪転機に望むべくもありません。狭い色領域、低い白色度、安定しない色管理。高速輪転機によるチープな紙への印刷ではおのずと限界があります。ブランド確立のための広告は除き、掲載イメージ即売上に直結する小売、食品、ブライダル業界などは、よりうまそうに見えるチラシや雑誌、フリーペーパーなどに出稿が流れがちです。クライアントもあきらめ顔。奮闘する新聞営業の苦労は計り知れません。例え新聞用JapanColorが策定され、カラーマネジメントが制作ラインに導入されようと、出口が変わらない限り現場の努力ではどうしようもないのです。 ・ページ割りについて これは社内意識の問題も多いかと思いますが、基本の建てページはほとんど変わる事がありません。総合が最初から3ページその後国際、経済、株、スポーツ。後ろからラテ、社会、地方、情報...間に入るのが年次企画というように。それぞれ面の性格に合わせた記事を集めようとしますが、当然日によって記事の厚みはバラバラ。結果慢性的にニュースが少ない面は「埋める」ために薄い記事をさらに伸ばして(クレープのようだ)面を成り立たせている。そんな面にも締め切りは平等にやってくる、その悪循環を断ち切れないか。一方で興味を持った面はもっと厚くしてほしいのが心情。経済が見たい人はその他の面を削ってでもそのページに割いて欲しいはず。しかしその個人のニーズには応えることはできないのです。それと同様に広告主もターゲットを絞りづらいというのもあります。特にうちなどは全県1版ですので地域限定でその分安い広告出稿などというニーズにも応えられません。 ■ではどうする 長い愚痴になってしまいました。しかし、ここまで書いておいてなんなんですが、私は紙擁護派なんです。紙以外のビジネスプランがまだ確立されていないのと、容易に捨てられ、捨てることでその場で身軽になれるデバイスというものは見当たらないからです。電子ペーパーも普及率うんぬん以前に、300グラムの機械を「読むかもしれない」と常に持ち歩かなければいけないと考えると決して身軽な媒体とは言えません。そして、紙でやれることはまだあると思っているからです。 具体的にはうちで言えば鹿島、伊万里など各地域の印刷会社と契約&アウトソースした上で現地の商業印刷用輪転機で印刷し、冊子形式で配送する事ができるのではないかと思っています。日刊雑誌のような形態で、輪転機が高速でない分地域ごとに分散処理をさせる訳です。印刷業は輪転機の稼働率が命ですので、印刷不況の昨今手を組むのは悪い話ではないはず。自社で輪転機を持たない分部数の増減による経営リスクを減らせますし、現在販売店で折り込んでいるチラシを冊子のなかに全Pとして入れ込む事が可能になってくるでしょう。紙質にもよりますが、上質紙を通せば一般誌・フリーペーパーと遜色のない印面でニュース紙が出来上がります。もう色の再現性を理由に広告営業をあきらめる必要はありません。 版型はA4サイズ(タブロイドのさらに半分)くらいが現在の生活になじむのではないでしょうか。版型が小さくなれば面ごとのテーマがしぼりやすくなり、行数の都合で削られ突っ込みが足りない記事がなくなるでしょう。特定ジャンルのニュースがなければその面を減らせばいいのです。レイアウト作業も楽になります。先日論説委員と立ち話をしましたが、NewsMLでレイアウト定型化を進めれば、ニュース面は5人で整理が出来るのではないかと。現在20人程度で回している整理ですが、結果人員削減&ニュース価値判断により力点を置けるはずです。 さらに言うならデジタル印刷機を販売店ごとに導入し、データで受けた紙面を現地で直接印刷する事が理想です。あらかじめ断って取った個人情報とつきあわせることが可能になりますので、興味のある内容だけが載っている「その人だけ新聞」を配送する事ができます。顧客から「個客」へのシフトはインターネットでは当たり前になっています。広告主もターゲットを絞った広告展開が可能になれば、同額出稿でも満足度は上がるはずです。行もの年約広告に関してもGoogleAdsenceのような記事連動型広告も可能ですので、一般に高いと言われる新聞広告の課金制度も、小額から柔軟に対応できるのではないでしょうか。 ゆくゆくは電子ペーパーがインフラとして流通すれば取って代わられるでしょうが、 それまで少なくとも10年以上は紙はなくならないと思っています。 今の新聞に圧倒的に足りていないのは読者の視点です。2.3日前に紙面刷新委員会をのぞきましたが、他の製造業では当たり前のリサーチ&ディベロップメントではなく、「...と読者は思っているはず」と、読者を言い訳に自分が作りたい新聞論を語っていました。ターゲットを絞れない商品を漫然と出荷するばかりでは、家庭内で情報の不良在庫が増えるばかり。一般大衆という言葉が実は誰も指さないことを、消費者はネットに触れることで既に勘づいています。クッキーや懸賞などで徹底的に個人を特定してアプローチするネットの優位性と差は開くばかりです。 この私見は乗り越えなければならないハードルが多く存在します。 ・輪転機・製版に従事してきた人員の配転対策 ・地域ごとの印刷会社との印刷協定締結 ・印刷会社間の品質管理の平準化 ・枚葉機・輪転機・デジタル印刷機の性能の向上 ・折り込み広告会社との協定規約改定 ・折り込み・配送形態の変更による販売店の反発 ・既存広告会社・広告主の理解と協力 ・版型の変更への読者の反発 などなど。 ですが、今後読者に必要とされる「新聞」であるために、紙「も」出す情報会社としてあと30年生き残るためにはこれぐらいバッサリやることも必要なのでは。どちらにせよ今の業界では話の端にも上らない夢物語ですが、手始めに英国に習ってタブロイド化を検討するだけでも意識は変えていけるはず。オープンソースのようにこれをみた誰かが「そうじゃなくてこうやれば」といいアイデアを出してくれないかなぁという期待もあります。私たち新聞社員の能力なんてたかが知れたものです。積極的に外部の専門家の意見を取り入れて「仕事」を一歩前に進ませるのがプロなのではないでしょうか。 と、ここまでは「紙」というデバイスのお話でした。 これから新聞とネットは、デバイスは、ジャーナリズムは、どうなるのかの話は これの何倍ものスペースが必要ですし、ネット上の論議でもまだ結論は出ていません。しかし最近のカナロコやライブドアの動きを見ていると、むしろ私なんかではなく、報道関係や経営陣にその論議に参加してほしいと思っているところです。同期にも頭の切れる奴がいますので、まずはそこら辺を引きずり込まなくちゃ。 というわけで、いわゆる見た目のデザインとあまり関係のない独り言になってしまいましたが、やはりデザインは設計です。基礎の下の土壌改良から手を付けないと良い構築物はできません。新聞という製品はこれの他にも改良のしどころは無数にあります。何せ佐賀は低平地、軟弱地盤で有名ですからね。
by nekotekikaku
| 2005-02-10 06:04
| @新聞屋
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